経済の国際化や農村の混住化のなかで、農業経営は社会的な存在としての認知を求められている。その条件となる経営倫理とステイクホルダーから出発し、農産物生産を通じた多面的機能、そして食農教育・都市農業・農福連携という直接的な社会貢献の実態を、農林水産省調査や都市住民アンケートのデータとともに学ぶ。
農業経営は、農産物等の生産・販売等の経済活動のみを行う主体ではない。社会への貢献によって、農業経営は社会的な存在としての認知をより高めることができる。
農業経営と社会との関係には、2つの貢献経路がある。
農産物の生産・販売という経済活動を通じた社会への貢献。多面的機能を発揮した社会貢献。
発揮される多面的機能:
経営環境への働きかけを含めた、農産物の生産・販売以外の活動による直接的な社会への貢献。
社会への貢献によって、農業経営は社会的な存在としての認知をより高めることができる。
大企業を中心に、さまざまな分野において社会貢献活動を実施している。社会的認知を高めるための経営活動、企業戦略としての意味もある。
農業経営者は地域社会のなかでさまざまな社会活動に従事している。その一例が食農教育への取り組みであり、近年の食への関心の高まりから各地で実施されている。
教育の現場からは農業者への協力を求める声が多く、積極的に食農教育に取り組む農業経営も見られる。食農教育活動は、農業経営の社会的認知を高めると同時に、直接的な経営上の効果ももたらしている。
調査対象
酪農(2.5時間/回、33.2回/年) ・ 耕種(2.1時間/回、8.5回/年)
| 料金区分 | 酪農 | 耕種 |
|---|---|---|
| 無料 | 41.0 | 69.8 |
| 実費 | 38.5 | 25.6 |
| 実費+日当 | 20.5 | 4.7 |
| 影響項目 | 酪農 | 耕種 |
|---|---|---|
| 新しい消費者の育成 | 65.4 | 44.2 |
| 新しいやりがい | 55.1 | 48.8 |
| 地域の活性化 | 47.4 | 48.8 |
| 地域との良好な関係 | 47.4 | 32.6 |
| 新しいビジネス | 37.2 | 20.9 |
| 経営の知名度向上 | 29.5 | 11.6 |
| 後継者育成 | 12.8 | 46.5 |
都市の農業と農地は、農産物生産という基本的機能にとどまらず、コミュニケーション・福祉・教育・リサイクル、さらに環境保全・景観形成・防災など、多面的な機能を担っている。
| 農業の多面的機能 | 機能の内容 |
|---|---|
| 農産物生産 | 食料生産等の基本的機能 |
| コミュニケーション | 市民相互・農家との交流を通じた文化の享受やコミュニケーション形成 |
| 福祉 | 農作業を通じた老齢化防止、植物によるヒーリング効果、園芸療法 |
| 教育 | 自然や農業を通じた情操教育や環境教育及び農学・林学の学習 |
| リサイクル | 生ゴミ等の有機肥料化による有機野菜栽培等 |
| 農地の多面的機能 | 機能の内容 |
|---|---|
| 環境保全 | 生物資源保存機能と自然環境保全機能 |
| 景観形成 | 潤いのある景観、日本の原風景、季節の変化を感じる風景等の形成 |
| 防災 | 災害時の避難場所・避難路、防災緑地、延焼の遮断、仮設住宅建設地機能 |
| 歴史・文化 | 鎮守の森の保全や収穫祭等の継承 |
| 宅地化支援 | 宅地化の促進・良好な田園居住を支援する庭や菜園等 |
| 市街化留保・抑制 | 市街化を一時留保、一定期間抑制する機能 |
東京都内居住者1,000名(農家を除く)を対象に、居住地の都市化レベル別に都市農業への評価を調べた。居住地域の周辺に農地がどれだけあるかで、農業への関心や農地への意向は大きく変わる。
SURVEY 2005.03対象:東京都内居住者1,000名(農家を除く)。「居住地域にどのくらい農地があるか」という問に対する回答で、居住地の都市化レベルを4段階に分類した。
| 回答(居住地域の周辺に農地が) | 都市化レベル |
|---|---|
| たくさんある | 都市化レベル 1 |
| 少しある | 都市化レベル 2 |
| あまりない | 都市化レベル 3 |
| 全くない | 都市化レベル 4 |
| 都市化レベル | 交通網が充実 | 物や店が豊富 | 活気や刺激がある | 教育や生涯学習の場に恵まれている | 緑や自然が多い | 医療や福祉が充実 | スポーツや娯楽などの施設が充実 | 芸術や文化に触れる機会が多い | 情報が豊富 | 特にない |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 全体 | ||||||||||
| 全体 | 70.2 | 49.5 | 21.6 | 19.2 | 40.0 | 23.0 | 15.7 | 18.4 | 26.2 | 8.7 |
| レベル 1 | 37.4 | 33.6 | 7.5 | 14.0 | 86.9 | 19.6 | 9.3 | 7.5 | 6.5 | 5.6 |
| レベル 2 | 58.9 | 41.6 | 15.1 | 20.8 | 58.1 | 21.9 | 13.8 | 15.7 | 20.3 | 10.3 |
| レベル 3 | 77.8 | 55.7 | 25.3 | 18.1 | 20.4 | 18.1 | 15.4 | 17.6 | 31.2 | 11.3 |
| レベル 4 | 90.5 | 60.7 | 31.9 | 20.0 | 14.9 | 29.2 | 20.7 | 26.4 | 36.9 | 5.8 |
| 都市化レベル | 車や人が多い | 物価や地価が高い | 治安が良くない | 緑や自然が少ない | 住宅事情が悪い | 大気汚染が気になる | 騒音が気になる | 人間関係が希薄 | 特にない |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 全体 | 33.8 | 40.8 | 19.5 | 23.0 | 17.9 | 33.6 | 25.0 | 21.7 | 17.9 |
| レベル 1 | 9.3 | 22.4 | 15.9 | 2.8 | 12.1 | 12.1 | 10.3 | 15.9 | 40.2 |
| レベル 2 | 27.8 | 37.6 | 19.5 | 10.8 | 13.0 | 28.6 | 23.0 | 21.1 | 19.5 |
| レベル 3 | 38.9 | 42.1 | 20.8 | 29.4 | 25.3 | 39.4 | 28.1 | 22.6 | 13.1 |
| レベル 4 | 46.4 | 50.5 | 20.0 | 40.7 | 20.7 | 43.4 | 30.5 | 23.7 | 11.5 |
| 都市化レベル | 大いに関心がある | まあ関心がある | あまり関心はない | 全く関心はない |
|---|---|---|---|---|
| 全体 | 9.5 | 48.2 | 32.7 | 9.6 |
| レベル 1 | 12.1 | 55.1 | 25.2 | 7.5 |
| レベル 2 | 9.5 | 52.4 | 30.8 | 7.3 |
| レベル 3 | 8.1 | 45.7 | 34.8 | 11.3 |
| レベル 4 | 9.5 | 42.4 | 36.3 | 11.9 |
| 都市化レベル | 趣味で農作業をしている | 以前したことがある | 全くしたことがない |
|---|---|---|---|
| 全体 | 6.9 | 25.3 | 67.8 |
| レベル 1 | 11.2 | 17.8 | 71.0 |
| レベル 2 | 7.6 | 29.7 | 62.7 |
| レベル 3 | 6.8 | 28.5 | 64.7 |
| レベル 4 | 4.7 | 20.0 | 75.3 |
| 都市化レベル | すでに利用している | 今後利用したい | 近くにあれば利用したい | 料金が安ければ利用したい | 指導者がいれば利用したい | 利用したいとは思わない |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 全体 | 2.0 | 3.8 | 24.3 | 16.0 | 13.3 | 40.6 |
| レベル 1 | 6.5 | 3.7 | 19.6 | 21.5 | 15.0 | 33.6 |
| レベル 2 | 2.2 | 5.1 | 24.1 | 18.1 | 12.4 | 38.1 |
| レベル 3 | 2.3 | 3.6 | 25.3 | 16.7 | 13.6 | 38.5 |
| レベル 4 | 0.0 | 2.4 | 25.4 | 10.8 | 13.6 | 47.8 |
| 都市化レベル | 新鮮で安全な野菜などを供給できる | ゆとり・うるおいの場を提供する | 防災の役割を果たす | 住環境を保全する | 農業体験・教育の場を提供する | 生き物が増えて生態系が豊かになる | 生ゴミの肥料化などにより資源のリサイクルができる |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 全体 | 81.4 | 75.8 | 44.4 | 62.6 | 64.8 | 61.9 | 53.0 |
| レベル 1 | 126.2 | 80.4 | 56.1 | 88.8 | 51.4 | 67.3 | 34.6 |
| レベル 2 | 78.9 | 86.5 | 53.8 | 83.0 | 52.4 | 61.4 | 38.9 |
| レベル 3 | 77.4 | 70.6 | 42.1 | 51.6 | 70.1 | 66.1 | 59.3 |
| レベル 4 | 71.2 | 64.7 | 30.2 | 35.9 | 81.0 | 57.6 | 72.5 |
| 都市化レベル | 景観が悪化する | 悪臭がする | 騒音がする | 農薬が飛散する | 虫が発生する | ほこりが発生する | 廃棄物の不法投棄が起こる | 治安が悪化する |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 全体 | −131.0 | −44.5 | −146.9 | 18.7 | 27.8 | −19.3 | −37.2 | −138.1 |
| レベル 1 | −157.0 | −66.4 | −156.1 | 9.3 | −10.3 | 20.6 | −42.1 | −145.8 |
| レベル 2 | −138.9 | −51.4 | −148.4 | 12.7 | 5.4 | −18.6 | −49.5 | −141.1 |
| レベル 3 | −124.4 | −40.7 | −139.8 | 23.5 | 36.7 | −27.1 | −29.9 | −133.9 |
| レベル 4 | −116.6 | −30.8 | −147.1 | 26.1 | 63.1 | −28.8 | −25.4 | −134.6 |
| 都市化レベル | あったほうがよい | ないほうがよい | どちらとも言えない |
|---|---|---|---|
| 全体 | 58.8 | 5.0 | 36.2 |
| レベル 1 | 84.1 | 1.9 | 14.0 |
| レベル 2 | 74.9 | 2.2 | 23.0 |
| レベル 3 | 50.2 | 4.5 | 45.2 |
| レベル 4 | 35.9 | 10.2 | 53.9 |
| 都市化レベル | 積極的に農産物を生産する | 緑地や市民農園などに活用して残す | 住宅地等に活用していく | わからない |
|---|---|---|---|---|
| 全体 | 29.2 | 53.5 | 4.1 | 13.2 |
| レベル 1 | 45.8 | 42.1 | 1.9 | 10.3 |
| レベル 2 | 33.5 | 55.4 | 2.7 | 8.4 |
| レベル 3 | 22.6 | 56.6 | 4.5 | 16.3 |
| レベル 4 | 22.7 | 52.9 | 6.4 | 18.0 |
| 都市化レベル | 学校給食に地場産野菜を使用 | 生産者と消費者の顔の見える関係作り | 農産物の直売所、生産地表示等の整備 | 遊休化した農地を再生する取り組み | 農業体験・自然観察の場の整備 | 市民の農業参加を支援 | イベント・朝市・講習会等の機会の増加 | 都市農業に関する情報の提供 | 農家への補助金支給や税金の優遇 | 取り組む必要はない | わからない |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 全体 | 41.3 | 35.5 | 48.6 | 33.0 | 20.8 | 19.7 | 19.6 | 14.1 | 13.5 | 1.9 | 8.6 |
| レベル 1 | 52.3 | 33.6 | 60.7 | 34.6 | 20.6 | 15.0 | 15.9 | 13.1 | 15.9 | 1.9 | 3.7 |
| レベル 2 | 43.2 | 43.2 | 55.7 | 33.5 | 18.1 | 19.5 | 17.0 | 14.6 | 13.8 | 1.4 | 5.9 |
| レベル 3 | 41.2 | 33.0 | 46.6 | 31.2 | 27.1 | 17.2 | 22.2 | 10.0 | 14.5 | 0.9 | 10.0 |
| レベル 4 | 34.9 | 28.5 | 36.9 | 33.2 | 19.7 | 23.7 | 22.4 | 16.9 | 11.5 | 3.4 | 12.5 |
都市化レベルが低い(農地が身近にある)地域ほど、「緑や自然が多い」を長所に挙げ(表1:レベル1で86.9)、農業への関心も高く(表3)、農地が「あったほうがよい」とする割合が高い(表8:レベル1で84.1)。逆に農地が遠い地域ほど、その評価は弱まる。
一方、都市農業の「問題」(表7)は多くの項目で得点がマイナス=「問題とは思わない」が優勢で、住民は都市農業をおおむね肯定的に受け止めている。身近さが評価を支えるという関係が、複数の表に一貫して現れている。
農福連携とは、障害者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組。福祉と農業の双方に効果をもたらす。
障害者等の就労や生きがいづくりの場を生み出す。
担い手不足や高齢化が進む農業分野において、新たな働き手の確保につながる可能性。
障害者のみならず、就労・社会参画支援や立ち直り支援の対象を拡大している。
特例子会社:企業が障害者の雇用を促進する目的で作る子会社。
「障害者の雇用の促進等に関する法律」により、一定規模以上の事業主には障害者雇用が義務付けられている。事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立し一定の要件を満たす場合、特例として、その子会社に雇用されている従業員を親会社に雇用されているものとみなして雇用率に算定できる。
| 法定雇用の要件 | 現行 | 2026年7月以降 |
|---|---|---|
| 対象となる事業主(雇用する従業員数) | 40.0人以上 | 37.5人以上 |
| 障害者の雇用割合(義務) | 2.5%以上 | 2.7%以上 |
障害特性に配慮した仕事の確保・職場環境の整備が容易となり、障害者の能力を引き出すことができる。職場定着率が高まり、生産性の向上が期待できる。
雇用機会の拡大。障害者に配慮された職場環境の中で、個々人の能力を発揮する機会が確保される。
社会性 ― 社会的な存在としての認知
今日の日本の農業経営は、経営の存続にも関わる厳しい経済・環境条件に置かれている。経済の国際化、農村の混住化など経営環境が大きく変化するなかで、農業経営は社会的な存在としての認知を求められている。
今日の日本の農業経営が置かれている状況
農業経営の持続可能性を支える3つの側面
経済性 / 社会性 / 環境性
経済性
経営内部 / 社会経済社会性
経営内部 / 地域社会環境性
経営内部 / 地域環境社会的な存在として認知されるための条件
経営倫理
社会的に健全な経営を行う誠実性を求める。農業経営者は社会に対して経営を代表し、経営の責任を持たなければならない。
経営倫理として評価される事項:
ステイクホルダー
経営の活動によって利害関係が生じるグループや個人。【狭義】経営の存続と成功に不可欠なグループ。
農業経営の場合に存在するステイクホルダー: