農業は本来、物質循環を基本とし、環境との調和なしには生産活動を長期的に持続できない。農業経営の持続可能性を経済性・社会性・環境性の3側面から捉え、環境保全型農業の類型と栽培方法の定義、ISO14001による環境マネジメントシステムと農業分野での導入事例、そしてバイオマスの種類と利活用までを学ぶ。
農業は本来、物質循環を基本とし、環境との調和なしには生産活動を長期的に持続できない。同時に国土・環境保全といった多面的・公益的機能をもち、その機能は適切な生産活動を通じて維持される。
しかし、肥料や農薬の不適切な使用、畜産廃棄物の不適切な処理によって、河川・湖沼・地下水の汚染を引き起こしている事例もみられる。
講義では「農業は地球環境にとってどのような存在か?」という問いが立てられ、その一例として畜産の環境負荷に関する問題が紹介されている。
農業経営の持続可能性は、経済性・社会性・環境性の3つの側面から捉えられる。それぞれが「経営内部」と「経営外部」の両面をもつ。
環境保全型農業とは、農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業のことである。
取り組みの程度には幅がある。原典では次の段階的・並列的な取り組みが挙げられている。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 既存技術の活用 | 土づくりなど既存の技術を活用して、可能な範囲で化学肥料・農薬を節減することなどにより環境負荷を軽減する。 |
| 新技術・資材 | リサイクルの推進、施肥・防除基準の見直し、新技術・資材の活用の推進などにより一層環境負荷を軽減する。 |
| 消費者ニーズ対応 | 環境負荷の軽減と同時に消費者の食の安全性に対するニーズに対応して、減化学肥料・減農薬・無化学肥料・無農薬などの栽培方法を導入する。 |
| 有機農産物 | JAS法に基づく有機農産物の栽培。 |
| 環境マネジメント | 環境マネジメントの国際環境規格である ISO14001 の認証。 |
環境保全型農業は、減農薬・減化学肥料・無農薬・無化学肥料・有機・エコファーマー・地方自治体の認証・ISO14001 といった類型に整理できる。それぞれ条件・根拠・農業経営数が異なる。
| 類型 | 農業経営数 | 条件 | 根拠 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 減農薬栽培 | 337,715 | 農薬使用量が栽培期間中、慣行の50%以下。 | 特別栽培農産物に係る表示ガイドライン | ― |
| 減化学肥料栽培 | 314,215 | 化学肥料使用量が栽培期間中、慣行の50%以下。 | 特別栽培農産物に係る表示ガイドライン | ― |
| 無農薬栽培 | 26,789 | 農薬を栽培期間中に使用しない。 | 特別栽培農産物に係る表示ガイドライン | ― |
| 無化学肥料栽培 | 32,053 | 化学肥料を栽培期間中に使用しない。 | 特別栽培農産物に係る表示ガイドライン | ― |
| 有機栽培 (JAS認証) |
3,732 | 有機農産物等の登録認定機関による認定を受ける。播種の2年以上前から無農薬・無化学肥料等。 | 農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)、有機農産物の日本農林規格 | 「有機」名称が使用可。現在、畜産物・水産物は対象外。 |
| エコファーマー | 83,767 | 都道府県知事に「持続性の高い農業生産方式の導入に関する計画」を提出し認定を受ける。 | 持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律 | 農業改良資金や税制上の優遇措置がある。 |
| 地方自治体の認証 | ― | 地方自治体の設ける制度による。 | 地方自治体による条例など | ― |
| ISO14001 | 約100 | 環境マネジメントシステムを構築し、審査登録機関の認証を受ける。 | 国際規格 | ― |
農産物の栽培方法は、化学肥料・化学合成農薬の使用度合いによって 有機栽培等・特別栽培・エコファーマー・慣行栽培 に区分される。
有機JAS認定を受けた農産物、及び、有機JAS認定は受けていないが化学肥料及び化学合成農薬を使用せず行う栽培方法。
化学肥料と化学合成農薬の使用について、地域における慣行的な使用量に比べ、5割以上低減した栽培方法。
土づくり、化学肥料と化学合成農薬の使用低減技術の導入に一体的に取り組む計画を作成し、都道府県知事から認定を受けた農業者。
化学肥料と化学合成農薬の使用について、地域における慣行的な使用量による栽培方法。
有機農業は法律で定義されており、近年はその拡大を地域ぐるみで進める「オーガニックビレッジ」の取り組みが進められている。
有機農業の拡大に向けて、ほ場の団地化などの生産から学校給食の利用など消費まで一貫した取組を、農業者・事業者・地域内外の住民などの関係者が参画の下、地域ぐるみで進める市町村。
ISO14001 は、環境負荷の低減といった環境パフォーマンスの改善を実施する仕組みが継続的に運用されるシステム(環境マネジメントシステム)の規格である(1996年に発行)。
組織が自ら環境方針および目的を定め、その実現のための計画を立て、それを実施および運用し、その結果を点検および是正し、さらに次のステップを目指した見直しを行うという PDCAサイクル を確立する。
環境マネジメントシステムを継続的に向上させ、環境に与える有害な負荷を減少させることがねらいである。
農業分野でのISO14001導入は、経営の主業が何かによって A〜Eの5タイプ に分類される。
いずれも法人経営であり、事業規模が大きく、園芸・畜産が多い。
農業以外を主業としている経営のうち、食品製造業。直営の農業生産部門での実施、または原材料調達先農家との契約・指導の形をとる。
農業以外を主業としている経営のうち、その他の農業関連産業。農業資材製造業・造園業などが中心。
農業部門への参入を図り、主業部門とともに認証を受けている。主業部門は様々だが、農業部門は施設園芸が中心。
農業協同組合は、組織活動における環境負荷の軽減にとどまらず、組合員農家への営農指導事業の中で、農薬・化学肥料等の使用量削減や有機無農薬栽培を推進する環境マネジメントシステムを提供。地方公共団体も農業振興策の一環として推進するケースがある。
各タイプの実例を見ると、ISO14001導入の背景・取り組み内容・効果が具体的に理解できる。
1984年に農家4戸が営農組合として設立(1986年に法人化)。83haに3種類の葉ネギを周年栽培し、年間約700tを生産する企業的経営。農産物生産を行う企業の中で、最も早くにISO14001の認証を取得した。
静岡県農林水産部および静岡県農業協同組合中央会が、農業法人に対してISO14001の導入を検討。静岡県の特産品であるお茶が、JAS法の改正により有機認証が困難となり、有機認証以外の環境保全をアピールする認証を検討してISO14001に注目。そのモデルケースとしてアトップへ働きかけた。
立地条件として、海岸近くの砂地に立地している圃場が多く、保水力が弱く肥料が流出しやすいという土壌の問題を抱えていたため、従来より土壌改良や環境への配慮に力を入れていたことも背景にある。
自然環境に配慮し農業を通じて社会貢献をすることを掲げ、環境方針として、地球に優しい農業を実践して自然の恩恵に感謝する心を常とし、安全で新鮮な葉葱を供給するとともに、持続可能な農業経営を目指す。
Bタイプには、①直営の農業生産部門で環境保全型農業を実施するケース、②原材料調達先の農家と契約を結び、環境保全型農業の指導・推進を行うケースがある。
1997年に制定した「サントリー環境基本方針」に基づき、製品開発・生産・販売・ロジスティクスという各活動領域で積極的に環境課題に取り組む。生産工程における環境負荷低減を一層推進するため、洋酒・ビール・ワイン・清涼飲料の工場においてISO14001の認証取得を進めており、登美の丘ワイナリーの認証取得は9番目。
ニュージーランドでは、農業部門におけるISO14001導入の中心的役割を果たしてきたのがワイナリーであり、原材料の調達面から環境保全型農業の推進を目指す点で共通している。
自然環境の保護(ワイナリー内の生物の種類の調査、ワイナリー周辺地域の清掃活動、場内に桜の木を植樹し緑地維持)、省エネルギー化・省資源化、グリーン購入の推進。
Cタイプは農業資材製造業・造園業などの事業を行っているものが中心。農業資材製造業は、減農薬栽培・減化学肥料栽培を推進するための農業資材の生産が中心で、農産物といっても天敵生物などが多い。造園業は緑化植物の生産・販売を行うものが多い。
イケダグリーンのISO14001認証取得は、新規事業としての無農薬農産物生産販売事業の立ち上げと関係がある。
ISO14001によって環境に優しい農業を進め、特徴ある産地づくりを行うため、生産から流通の各段階での認証取得を推進。農家のみならず、農産物の販売を行う高知県園芸農業協同組合連合会、農産物の輸送を行う高知通運株式会社・四国運輸株式会社もISO14001の認証を取得し、生産から販売・流通の各段階をISO14001の取り組みでチェーン化した。
農家のISO14001認証取得は、高知県環境保全型畑作振興センター(現・高知県立農業担い手育成センター、以下「センター」)が中心となり、生産現場での環境マネジメントシステムの構築・運用を進め、2002年に同センターの認証範囲を拡大する形で参加農家の認証取得を実現した。
ISO14001の確立には、コスト・効果・団体/公共の役割 という3つの課題がある。
認証取得には、時間・人材・資金・設備投資・情報などが必要。審査・登録に約300万円が必要で、農家経営では負担が困難。認証の有効期限は3年であるため、3年ごとの更新が必要。
マーケティング上の有効な差別化戦略となりうるか疑問。消費者での知名度が必ずしも高くない。そのため、ISO14001の認証を取得し、なおかつ有機JAS認証を取得する事例も見られる。環境保全に関わる様々な制度があるため、ISO14001自体の効果が発現しにくい状況がある。
個別の農業経営だけでは対応しきれない問題を克服するうえで、農業協同組合および地方公共団体の役割は大きい。ISO14001の普及・推進だけではなく、農業協同組合および地方公共団体が認証獲得の主体となり、周辺農家に認証対象を拡大するという手法が用いられており、効果をあげている。
バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表す概念。一般的には「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」を指す。
廃棄される紙、家畜排せつ物・食品廃棄物・建設発生木材・製材工場残材・黒液(パルプ工場廃液)・下水汚泥・し尿汚泥。
稲わら・麦わら・もみ殻・林地残材(間伐材、被害木 等)。
さとうきびやトウモロコシなどの糖質系作物や、なたねなどの油糧作物。
| 種類 | 利用状況 |
|---|---|
| 廃棄物系バイオマス | 経済性等の観点から、利活用が進められている。 |
| 未利用バイオマス | 家庭系生ごみ、農作物非食用部、林地残材などの有効利用は不十分。 |
| 資源作物 | 現時点では少ない。菜の花を栽培して食用油として利用した後、収集してバイオディーゼル燃料の原料として利活用する取組みを進めている地域や、さとうきびなどを原料にバイオエタノールを製造して自動車用の燃料に利活用する実証試験が行われている。 |
廃棄物の削減によって、バイオマスの発生量は減少傾向。一方、バイオマスの利用率は向上し、利用量は増加傾向にある。