農業経営学 講義シリーズ
Lecture 11  ·  2026年5月25日(月)

農業経営の集団的活動

一つの農業経営で完結する個別的活動だけでなく、他者とともに行う集団的活動。その形成は「個別では実現できないメリット」と「集団を形成するコスト」の比較で決まる。相互行為/社会的行為と分業的/協同的結合の組み合わせ(6類型)を出発点に、地域営農集団・集落営農の構造と実態調査、そして農業構造改革における市場と組織の関係を学ぶ。

集団的活動 相互行為 / 社会的行為 分業的 / 協同的結合 地域営農集団 集落営農 農業構造改革
木南章 教授(東京大学大学院農学生命科学研究科) 2026年5月25日 全24ページ 企業形態論
Contents
  1. 01. 農業における集団的活動
  2. 02. 農業者間の結合の類型(6類型)
  3. 03. 地域における稲作農業の姿
  4. 04. 農業生産の組織化
  5. 05. 地域営農集団とは
  6. 06. 土地利用に関する組織的活動
  7. 07. 地域営農集団の多様性
  8. 08. 集落営農とその実態
  9. 09. 農業構造改革との関係
  10. 10. 市場と組織
SECTION 01

農業における集団的活動 ― 個別では実現できないメリットとコスト

一つの農業経営で完結する個別的活動だけではなく、他者とともに行う集団的活動がある。集団的活動が形成されるのは、個別的活動では実現できないメリットが、集団的活動を形成するためのコストを上回るときである。

一つの農業経営で完結する個別的活動だけではなく、他者とともに行う集団的活動。
例)共同作業、共同販売、機械の共同所有・共同利用、農作業や経営の受委託など。
集団的活動の形成要因:多様で地域性を持った要因
個別的活動では実現できないメリット > 集団的活動を形成するためのコスト

農業者間の結合の基礎にある「行為」

農業者間の結合は、2 つの行為類型を基礎にしている。

行為 ①

相互行為

不特定多数や未知の他者を対象としたものではなく、血縁・地縁・知人・友人などを基礎にした行為。

  • ポランニー「社会に埋め込まれた経済行為
行為 ②

社会的行為

不特定多数や未知の他者を対象とした行為。

  • 証券市場のような市場的取引がその代表

結合の論理 ― 分業の論理と協同の論理

論理 ①

分業的結合

分業の論理に基づく結合。相互行為・社会的行為のいずれによっても成立しうる。

論理 ②

協同的結合

協同の論理に基づく結合。

  • 不特定多数や未知の他者との間には想定しにくい
出典:木南章「農業経営学」第11回 講義資料 p.2–3(2026年5月25日)。「社会に埋め込まれた経済行為」はポランニーに帰される。
SECTION 02

農業者間の結合の類型 ― 2 × 3 の組み合わせで 6 類型

結合の状況は、協同的結合(有・無の 2 種類)分業的結合(有〔相互行為〕・有〔社会的行為〕・無の 3 種類)の組み合わせにより、6 つの類型に整理される。

協同的結合は不特定多数・未知の他者との間には想定しにくいため、分業的結合のように相互行為/社会的行為で細分されず「有・無」の 2 種類となる。

表 ― 農業者間の結合の類型

協同的結合
なし あり
分業的結合 なし
相互行為
社会的行為
縦軸が分業的結合(なし/相互行為/社会的行為)、横軸が協同的結合(なし/あり)。次の SECTION 03 で、この①〜⑥が地域の稲作農業の具体的な姿に対応づけられる。
出典:木南章「農業経営学」第11回 講義資料 p.3「表 農業者間の結合の類型」(2026年5月25日)。
SECTION 03

地域における稲作農業の姿 ― 6 類型の具体例

6 類型は、地域における稲作農業の姿として具体化される。①は自己完結型、⑥に向かうほど分業的結合と協同的結合が重なる。

1

自己完結型経営

分業的結合 なし 協同的結合 なし
2

血縁関係による農地賃貸借

分業的結合(相互行為)
3

機械銀行による農地賃貸借

分業的結合(社会的行為)
4

機械共同利用

協同的結合
5

集落ぐるみ生産組織

分業的結合(相互行為) + 協同的結合
6

受託組織による広範囲な借地

分業的結合(社会的行為) + 協同的結合
①の自己完結型を起点に、分業(②③)/協同(④)の単独結合、さらに両者が重なる集落ぐるみ(⑤)・受託組織(⑥)へと、地域の稲作の姿が段階的に展開する。
出典:木南章「農業経営学」第11回 講義資料 p.4「例)地域における稲作農業の姿」(2026年5月25日)。番号①〜⑥は SECTION 02 のマトリクスに対応。
SECTION 04

農業生産の組織化

集団的活動の論理を踏まえ、講義は農業生産の組織化へと進む。

原典 p.5 は章扉(見出し「2.農業生産の組織化」)のみで、本文テキストは記載されていない。続く SECTION 05 以降(地域営農集団・集落営農)が、この組織化の具体的な担い手・形態を扱う。原典 p.5 を参照。
SECTION 05

地域営農集団とは ― 属地的な生産組織

集団的活動のなかでも、とりわけ「土地利用に関する活動」は重要である。これを担うのが地域営農集団(=生産組織)である。

地域営農集団

1 集落ないし必要な地域範囲において、地域の総意(合意)を基礎に、土地利用に関する組織的活動を行う属地的な生産組織
営農集団 = 生産組織

地域営農システム

活動範囲を市町村レベルまで広げ、行政・農協・関係機関の参加する形に発展したもの。活動領域も拡大する。

地域営農集団(1 集落〜地域範囲)から 地域営農システム(市町村レベル+行政・農協・関係機関)へと、活動範囲・参加主体・活動領域が拡張する関係にある。
出典:木南章「農業経営学」第11回 講義資料 p.6「3.地域営農集団」(2026年5月25日)。
SECTION 06

土地利用に関する組織的活動

土地利用に関する組織的活動は、①土地にかかわる活動と、②土地利用を担う労働・機械・施設にかかわる活動(=組織的土地利用)に大別される。

1)土地にかかわる組織的活動

(1)団地的土地利用

生産の効率化と安定化等を目的として、組織によって団地化された土地利用。

(2)土地利用権調整

農地の利用権を、組織的な合意形成によって調整する。調整の主体・方式により次の 4 つがある。

土地利用権調整の 4 つの方式

1

個別の取引を第 3 者が調整する。

2

地域ぐるみの営農集団が、活動の一環として地域内農地の利用を調整する。

3

営農集団とは別の集落ベースの組織が、地域内の土地利用計画に基づいて調整する。

4

比較的広範囲の農地の利用権を土地利用調整組織が一時集積した後に、それを個別経営や営農集団に配分する。

2)土地利用を担う労働と機械・施設にかかわる組織的活動 = 組織的土地利用

生産の効率化やコスト節減等を目的とした共同作業
機械・施設の共有、および共有機械・施設による共同作業。

団地的土地利用・土地利用権調整(=土地そのものの活動)と、組織的土地利用(=労働・機械・施設の活動)。この 2 軸の組み合わせが、次の SECTION 07 で地域営農集団の機能類型を生む。
出典:木南章「農業経営学」第11回 講義資料 p.7「土地利用に関する組織的活動」(2026年5月25日)。
SECTION 07

地域営農集団の多様性 ― 機能類型とぐるみ型/重層型

実際に各地で活動する地域営農集団は、組織特性・経営管理方法・経営成果などの点で極めて多様である。

土地にかかわる活動状況(団地的土地利用/土地利用権調整/団地的土地利用+土地利用権調整)と、組織的土地利用の有無の組み合わせから、地域営農集団は 6 つのタイプに分類される。

原典 p.8 の「表 地域営農集団の機能類型」は画像(図表)として掲載されており、各タイプのセル内容はテキスト抽出できなかった。分類軸は本文記載のとおり「土地にかかわる活動状況 × 組織的土地利用の有無」。詳細は原典 p.8 を参照。

ぐるみ型と重層型

地域における組織活動を担う組織が、単一か複数かによって区分される。

Type — Single

ぐるみ型

土地利用に関する組織的活動を、ひとつの利用・調整主体が実施する。

Type — Layered

重層型

土地利用に関する組織的活動を、複数の利用・調整主体が有機的連携をもって分担する。
⇒ 機能ごとに組織が分化したもの。

地域営農集団を特徴づける その他の要因

地域条件

とくに土地条件。

集団メンバーの構成

専業・兼業、年齢構成など。

地域の範囲

1 集落、数集落、旧村、市町村など。

重層型地域営農集団の例

1

集落全戸の組織によって団地化や土地利用権調整を行い、少人数の営農集団が作業を行う。
= 全戸組織:団地的土地利用+土地利用権調整 / 少人数営農集団:組織的土地利用

2

集落のライスセンターを中心として作付・栽培協定と乾燥・調整作業を共同で行い、少人数の営農集団がその他の機械作業を行う。
= ライスセンター:組織的土地利用 / 少人数営農集団:組織的土地利用+団地的土地利用

出典:木南章「農業経営学」第11回 講義資料 p.8–10(地域営農集団の多様性/ぐるみ型・重層型/重層型の例、2026年5月25日)。
SECTION 08

集落営農とその実態 ― 農林水産省「集落営農実態調査」

集落営農とは、集落を単位として、農業生産過程の全部または一部について共同で取り組む組織である。

集落営農

集落を単位として、農業生産過程の全部または一部について共同で取り組む組織

定義の出典は農林水産省「集落営農実態調査」2025。以下の統計表は表ごとに出典年(2025/2023)が異なるため、各表の注記に明記する。
農林水産省「集落営農実態調査」2025

表 ― 組織形態別 集落営農数(割合, %)

都道府県別 / 計(実数)・法人割合・非法人割合
全国農業地域 計(実数) 法人 計 (%) うち 農事組合法人 (%) 非法人 (%)
全国3,95241.936.558.1
北海道9220.35.779.7
都府県3,76042.236.957.8
東北3,15136.330.463.7
北陸2,25558.550.941.5
関東・東山1,01838.532.261.5
東海72544.437.555.6
近畿1,86634.728.665.3
中国1,99547.142.952.9
四国58238.535.961.5
九州2,16138.136.061.9
沖縄7100.0
原典 p.14 の表には、法人の内訳として「会社(株式会社・合名・合資・合同会社)」「その他」の細分列があるが、PDF からのテキスト抽出では各列の対応が一意に確定できなかったため、確実に読み取れる法人計・うち農事組合法人・非法人のみを掲載した。会社内訳の数値は原典 p.14 を参照。
資料:農林水産省「集落営農実態調査」2025(原典 p.14)。
原典 p.13・p.15〜p.17 には次の図(グラフ画像)が掲載されており、数値はテキスト抽出できなかった。
・集落営農を構成する農業集落数別割合(全国)
・構成農家数別にみた集落営農数割合(全国)
・農地の集積面積規模別にみた集落営農数割合(全国)
いずれも資料は農林水産省「集落営農実態調査」2025。詳細は原典 p.13・p.15〜17 を参照。
農林水産省「集落営農実態調査」2023

表 ― 集積面積割合別 集落営農数(割合, %)

集積面積割合 = 集落内の総耕地面積に占める割合。

全国農業地域 50%未満 50〜60 60〜70 70〜80 80〜90 90〜100 100%
全国58.09.07.76.56.94.77.2
北海道66.74.65.17.25.65.65.1
都府県57.99.07.76.56.94.77.2
東北65.28.27.15.45.64.73.8
北陸44.210.610.08.910.57.58.4
関東・東山72.97.04.94.43.51.06.4
東海50.48.78.910.16.85.010.1
近畿64.98.07.45.35.53.15.8
中国43.810.99.58.59.75.312.3
四国70.79.03.54.23.51.67.6
九州60.58.86.85.56.54.96.9
沖縄100.0
資料:農林水産省「集落営農実態調査」2023(原典 p.18)。
農林水産省「集落営農実態調査」2023

表 ― 活動内容別 集落営農数割合:農産物等の生産・販売活動(%)

全国農業地域 計(実数) 生産・販売 小計 水稲・陸稲 麦・大豆・てん菜・原料用ばれいしょ そば 野菜 その他の作物(畜産物含む) 農産加工品
全国14,36479.765.044.312.317.928.44.5
北海道20828.77.712.813.38.215.92.1
都府県14,15680.465.844.712.318.028.64.5
東北3,24085.964.439.416.519.733.43.7
北陸2,30089.180.050.818.724.626.63.5
関東・東山1,03290.658.255.225.613.923.17.7
東海76077.966.146.05.215.417.44.9
近畿1,93577.563.344.76.117.824.74.1
中国2,08966.258.828.29.420.634.47.7
四国56065.251.032.61.216.527.94.9
九州2,23379.369.459.46.59.928.22.6
沖縄7
資料:農林水産省「集落営農実態調査」2023(原典 p.19)。
農林水産省「集落営農実態調査」2023

表 ― 活動内容別 集落営農数割合:生産・販売以外の活動(%)

全国農業地域 機械の共同所有・共同利用 防除・収穫等の農作業受託 農家の出役による共同農作業(機械利用以外) 作付地の団地化など土地利用調整 集落内の営農を一括管理・運営
全国88.144.451.356.327.9
北海道94.944.144.614.99.7
都府県88.044.451.456.928.2
東北82.630.750.562.424.8
北陸94.235.069.264.936.2
関東・東山84.439.147.450.127.7
東海81.364.254.165.135.7
近畿85.363.151.557.624.0
中国94.053.349.346.033.6
四国93.254.135.020.89.7
九州89.143.241.960.226.0
沖縄100.085.7
資料:農林水産省「集落営農実態調査」2023(原典 p.20)。
農林水産省「集落営農実態調査」2023

表 ― 経理の共同化の状況別 集落営農数割合(%, 複数回答)

全国農業地域 計(実数) 共同経理 小計 農業機械の利用・管理 オペレーター等の賃金 資材の購入 生産物の出荷・販売 農業共済 農業経営収入保険 経理を一括管理
全国14,22797.393.586.681.279.460.517.664.4
北海道19599.596.490.352.328.731.37.216.9
都府県14,03297.393.586.581.680.160.917.865.1
東北3,22095.190.685.086.285.962.415.665.5
北陸2,28298.998.397.493.089.172.830.584.8
関東・東山1,04397.992.592.491.790.071.013.076.9
東海73489.986.582.782.277.962.313.165.7
近畿1,91898.392.682.474.476.565.011.357.6
中国2,04698.297.082.768.465.738.923.255.3
四国57798.694.579.574.264.543.314.943.8
九州2,20598.992.884.879.079.062.812.959.9
沖縄7100.0100.0100.0
資料:農林水産省「集落営農実態調査」2023(原典 p.21)。「小計」=いずれかの収支に係る経理を共同で行っている。
農林水産省「集落営農実態調査」2023

表 ― 農業用機械の利用状況別 集落営農数(%, 複数回答)

個人利用を除く集落営農の作業で利用した農業用機械がある。

全国農業地域 計(実数) 小計 トラクター 動力田植機 コンバイン
全国14,22770.163.555.063.8
北海道19533.321.05.123.6
都府県14,03270.664.155.764.4
東北3,22066.561.644.056.6
北陸2,28283.681.379.982.0
関東・東山1,04358.752.339.854.8
東海73473.071.163.469.3
近畿1,91866.162.652.757.1
中国2,04672.668.265.667.4
四国57774.065.359.364.5
九州2,20569.650.345.463.9
沖縄742.942.9
資料:農林水産省「集落営農実態調査」2023(原典 p.22)。
Professor's Note

実態調査の数字が示すのは、集落営農の実像である。機械の共同所有・共同利用が全国 88.1%農業機械の利用・管理に係る経理の共同化が 93.5% と高く、集落営農が機械・施設を軸とした共同利用組織として広く成立していることがわかる。一方、農業経営収入保険に係る経理の共同化は 17.6% にとどまり、活動領域には濃淡がある。

地域差も大きい。組織形態では北陸の法人化率 58.5% が突出し、北海道は非法人 79.7%。土地利用調整(団地化)の取り組み割合も、東海 65.1%・北陸 64.9% に対し北海道 14.9%・四国 20.8% と開きがある。地域条件の違いが集団的活動の形を規定している。

SECTION 09

農業構造改革との関係 ― 2 つの方向

各地域で展開する農業の姿は多様であり、集団的活動に大きな違いが見られる。地域間の違いに影響する要因は、自然条件・市場条件など。

地域農業の構造改革の方向性として、①借地による大規模個別経営の育成②組織的経営の育成がある。これは自己完結型の農業経営を起点として、次の 2 つの方向での展開過程と見ることができる。

起点:自己完結型の農業経営
Direction ①

市場的構造改革

市場メカニズムの活用。借地による大規模個別経営の育成へ。

Direction ②

組織的構造改革

組織化の推進。組織的経営の育成へ。

自己完結型を起点に、市場メカニズムを活用する方向(市場的)組織化を進める方向(組織的)の 2 つに分岐する。どちらの構造改革も、次の SECTION 10 で見るように「コスト」を要する。
出典:木南章「農業経営学」第11回 講義資料 p.23「5.農業構造改革との関係」(2026年5月25日)。
SECTION 10

市場と組織 ― なぜ市場経済の下で組織が存在するのか

市場経済の下で組織が存在する理由は、市場メカニズムがうまく機能しない、または大きなコストを要する局面が存在するからである。

市場的改革はコストを要する。同様に組織的改革もコストを要する。
市場に要するコスト:適切な取引相手と適切な価格を発見。
組織に要するコスト:合意形成コストと組織を維持管理。
Cost of Market

市場に要するコスト

適切な取引相手と適切な価格を発見するためのコスト。

Cost of Organization

組織に要するコスト

合意形成のコストと、組織を維持・管理するためのコスト。

上記のコストに影響する要因

1

地域農業を取り巻く経済的な条件

2

地域社会で形成されている農業者の意識(協力・競争意識、組織・市場志向、個人・家に対する意識、農業観など)などの文化的条件

市場的改革も組織的改革もコストを要し、そのコストは経済的条件と文化的条件に左右される。ゆえに 農業構造改革の方向性は、地域条件を考慮する必要がある
出典:木南章「農業経営学」第11回 講義資料 p.24「市場と組織」(2026年5月25日)。