農業経営者の機能は「経営目的の実現のために経営資源を統合し管理する」こと。企業家機能・管理者機能・リーダーシップの3機能とそれを支える能力から始め、意思決定の局面と問題、東畑精一「単なる業主」論をめぐる経営者能力の議論、認定農業者の経営管理意識調査、そして農業におけるアントレプレナーシップ(GEM・固定効果モデル・人材育成)までを学ぶ。
農業経営者の機能とは、経営目的の実現のために、経営資源を統合し管理すること。そのために企業家機能・管理者機能・リーダーシップの3つが必要となる。
安定した既存の枠組みを壊し(事業再編やイノベーション)、新しい成長の条件を求める機能。
安定した枠組みの中で経営効率を最大にする最適な条件を作る機能。
企業家機能と管理者機能とを、周囲の環境に応じて統合して発揮させる機能。
経営者機能を発揮するには、多様な能力が必要となる。能力が機能を生み、機能が成果につながる。
農業経営者は、さまざまな意思決定に迫られる。意思決定を経営活動の局面と問題の種類という2つの観点から分類する。
経営を環境に適応させる、経営環境をも変革するために、経営の将来目標、事業の方針、経営成長を決定。
経営目標の実現に向けた経営組織(役割、権限、責任関係など)と経営資源(技術、資材、労働)に関する決定。
日常の経営活動の効率を向上させるための、適期作業、施肥、給餌、防除などに関する決定。
日常的、定型的でマニュアル化が容易な問題への対応。問題が複雑であっても、コンピュータの活用によって解決できる問題。
突発的な問題、不確実な状況への対応。経験、勘、コツなどが重要となる。
日本農業で企業者機能を担っているのは誰か。東畑精一は、農民は「単なる業主」であると指摘した。経営者能力は普遍的なものではなく、環境に応じて自ら開発していくものである。
アジア各国と積極的に交流を図り、日本の役割や地位を高めようとする構想。その最重要課題10のうちの一つが 「グローバル化の中で成長する農業への変革」。
経営者に望ましい能力は普遍的なものではない。周囲の環境(外部環境)や、経営内部の状況(内部環境)の変化に応じて、自らが開発していくものである。
よく行われる先進事例の視察。単に先進的経営を参考にするにとどまる。
もし自分がその経営の経営者であったならば、経営成長の過程でどのような意思決定を行うか(行うことができたか)を検討する。これが重要。
Q = Q(S, L, K)
Q=生産物、S=土地、L=労働、K=資本
生産要素で捉えられない個別経営の要因 = 生産関数上のバイアス(マネジメント・バイアス)。
教育などの代理変数を導入して能力を捉える。
能力の要素への分解可能性。経営成果との因果関係。動態的な能力形成。
経営管理の各項目について、「実践している」回答層と「していない」回答層の販売金額差を見ると、両者の差が最も大きいのはクレーム対応(141万円)であった。
「認定農業者の経営管理に関する意向調査結果」(全国農業会議所、2006年11月実施)。配布数1,043、回収数484(回収率46.6%)。
調査内容:経営概況/目標設定・計画性/作業・労働環境整備/財務・資金管理/コスト管理/販売・マーケティング管理/情報収集・情報発信。
図の見方:各項目の数値は、その管理を「実践している」回答と「していない」回答の間の販売金額差(単位:万円)。バーは項目間で最大値(クレーム対応141)を基準に相対表示している。各対比の正確な文言は下記の通り。
イノベーションは産業の発展の原動力であり、それに必要な態度・発想・能力がアントレプレナーシップ。農業の新規開業・事業多角化を地域レベルで分析すると、全産業とは影響要因が異なることが見えてくる。
イノベーション ⇒ 産業の発展の原動力。これに必要な態度、発想、能力が アントレプレナーシップ。
関連する動き:クラスター、6次産業化、農商工連携、ネットワーク、フランチャイズ、企業参入、成長産業化など。多様な要因に規定され、把握・分析が困難。個人だけではなく、組織も対象となる。アントレプレナーシップを有する人材の育成が必要。
起業家精神の発現の結果のひとつとして、新規開業・事業多角化がある。
新規開業・事業多角化は競争戦略の形態である。
競争戦略の理論に基づいた分析枠組みを用いる。
新規開業・事業多角化を、需要要因・供給要因で説明するモデルをパネルデータ分析(固定効果モデル)で計測(都道府県別データを使用)。残差に相当する固定効果の大きさを把握し、これを地域レベルの起業家精神の指標とする。さらに固定効果(地域における起業家精神の成果)に影響する要因を分析する。
① 個人の開業意識:開業希望者割合
② 企業間ネットワーク:企業密度
③ ソーシャル・キャピタル:ボンディング指数/ブリッジング指数
④ 地域の多様性:ジェンダー・ギャップ
⑤ 地域の寛容性:外国人割合、自殺率
⑥ 農業集落:集落における活動状況
| 影響要因 | 新規開業 (全産業) FIE |
新規開業 (農業) FAG |
農産物 加工 FPR |
直接 販売 FDS |
|---|---|---|---|---|
| 開業希望者割合 ENT | 0.610 *** | -0.746 *** | -0.498 *** | -0.148 |
| 企業密度 FID | 0.970 *** | -0.914 *** | -0.619 *** | -0.622 *** |
| ボンディング指数 BON | -0.455 *** | 0.651 *** | 0.641 *** | 0.074 |
| ブリッジング指数 BRI | -0.201 | 0.384 *** | 0.480 *** | -0.012 |
| ジェンダー・ギャップ GEG | -0.264 * | 0.485 *** | 0.321 ** | 0.066 |
| 外国人割合 FOR | 0.554 *** | -0.611 *** | -0.330 ** | -0.254 * |
| 自殺率 SUI | -0.351 ** | 0.444 *** | 0.294 ** | -0.032 |
| 集落機能 COM | — | 0.246 * | 0.299 ** | 0.348 ** |
| 寄り合い MEE | — | 0.427 *** | 0.379 *** | 0.511 *** |
| 伝統文化 TRA | — | 0.233 | 0.513 *** | 0.060 |
| イベント開催 EVE | — | 0.249 * | 0.289 ** | 0.170 |
| 福祉活動 WEL | — | 0.387 *** | 0.352 ** | 0.187 |
| 環境保全 ENV | — | 0.650 *** | 0.562 *** | 0.496 *** |
| グリーン・ツーリズム GRE | — | -0.106 | 0.006 | -0.058 |
| 定住推進 SET | — | -0.079 | 0.064 | -0.108 |
注:*** は1%水準、** は5%水準、* は10%水準で統計的に有意であることを示す。「—」は原表で当該セルに数値が示されていない箇所(全産業列の集落関連変数)。
地域レベルの起業家精神の水準には大きな地域差がある。全産業と農業における固定効果に影響する要因には違いがあり、これは農業が相対的に劣位にあることを示唆する。農業における新規開業や事業多角化が、真の意味では地域レベルでの起業家精神の成果とは言えない。農業経営の法人化および農産物加工や直接販売が、行政の主導や政策支援、および地域おこしの一環として実施される事例も多い。
農業における雇用と人材育成に関する実態を把握。農業法人等の経営者を対象に実施したアンケート調査(『農業法人等の雇用と人材育成に関するアンケート』全国農業会議所、2012年11月実施、回答者数504)の結果を基に分析。中小製造企業(以下、中小企業)を対象とした人材育成問題に関する同様のアンケート調査結果(労働政策研究・研修機構 2012)と比較分析が可能なように設計されている。
| 人材の区分 | 農業法人 | 中小企業 |
|---|---|---|
| 職場で最も難しい仕事をこなせる人材 | 64.1 | 54.7 |
| 部下や後輩に指示や助言をしながら仕事をさせられる人材 | 54.3 | 50.2 |
| 単独で仕事をこなせる人材 | 52.5 | 34.6 |
| 先輩・上司の大まかな指示で仕事をこなせる人材 | 36.6 | 15.7 |
| 先輩・上司の細かな指示で仕事をこなせる人材 | 36.7 | 13.4 |
注:無回答者を除外して集計。それぞれの人材について「過剰」「適正」「不足」の3つの選択肢のうち「不足」と回答した割合。中小企業は機械・金属関連の製造業。出所:木南(2013)を基に作成。
| レベル | 農業法人 | 中小企業 |
|---|---|---|
| すべてのレベルでマニュアル化は可能 | 2.3 | 5.9 |
| 部下や後輩に指示や助言をしながら仕事をさせられるレベルまで可能 | 15.8 | 11.7 |
| 単独で仕事をこなせるレベルまで可能 | 49.3 | 42.6 |
| 先輩・上司の大まかな指示で仕事をこなせるレベルまで可能 | 79.2 | 67.2 |
| 先輩・上司の細かな指示で仕事をこなせるレベルまで可能 | 89.5 | 73.4 |
出所:木南(2013)を基に作成。
| 重点対象 | 農業法人 | 中小企業 |
|---|---|---|
| 経営者自身 | 31.0 | 37.2 |
| 会社全体の経営や管理を担える人材 | 45.0 | 32.7 |
| 職場のリーダーや監督の役割を果たせる人材 | 65.3 | 56.1 |
| 営業拡大や顧客開拓を進められる人材 | 22.4 | 16.3 |
| 事務関連の仕事を担当する人材(総務担当者など) | 19.2 | 11.8 |
| 特に力を入れていない | 8.4 | 16.5 |
出所:木南(2013)を基に作成。
能力の高い人材ほど不足し、かつマニュアル化が難しい。この「最も難しい仕事をこなせる人材」の不足は、農業法人で特に深刻だ。しかし同時に、農業法人は経営者の育成そのものに中小企業以上の重点を置いている。アントレプレナーシップを有する経営者をどう育てるかが、農業経営の発展の鍵となる。